股関節の領域│浜松医科大学 整形外科学講座(医師・医学生向け)

股関節の領域

 股関節は移動手段である下肢と姿勢に影響する脊椎をつなぐ重要な「かなめ」の関節です。また人体で最も深い位置に存在する関節であり、様々な筋肉が付着し、解剖学的にも複雑な形をした骨盤と大腿骨によって構成されています。いったん股関節に障害が生じると高度な機能障害をきたすだけでなく、膝や腰にも影響をおよぼします。その解剖学的な特性から治療にも高度な知識と技術を要する場合があります。とてもやりがいのある関節です。
 どの疾患もまずは保存治療(生活指導、運動療法、薬物療法)の可能性を追求します。保存治療に限界がある場合には、手術治療を選択します。手術治療には3つの戦略があります。股関節鏡視下手術、骨切り術、そして人工関節置換術です。

古橋 弘基

代表的な疾患を紹介します

1.股関節鏡視下手術

 私たちは患者さんに早期に復帰していただけるよう、できるだけ侵襲の少ない手術治療に取り組んでいます。その一つは高度な技術を要する股関節鏡視下手術です。当科では、全国でも股関節鏡視下手術に積極的に取り組んでいる施設の一つで、股関節の周囲に3か所の穴をあけ、そこからカメラと処置器具を入れて股関節疾患の治療を行います(図1、2)。主な適応疾患は股関節唇損傷、大腿骨寛骨臼インピンジメント、化膿性股関節炎、滑膜骨軟骨腫症などです。 ― さらに詳しい解説はこちらをご覧下さい

図1 股関節鏡による股関節唇損傷部位の確認
図2 股関節鏡視下に断裂した股関節唇を縫合

2.骨切り術

 次に患者さん自身の大腿骨の角度を変える骨切り術(大腿骨頭回転骨切り術:図3,大腿骨弯曲内反骨切り術:図4、大腿骨外反骨切り術)、荷重部を支える骨盤の屋根を作る骨切り術(寛骨臼回転骨切り術:図5,6、キアリ骨盤骨切り術)にも積極的に取り組んでいます。主な適応疾患は大腿骨頭壊死症、寛骨臼形成不全症、変形性股関節症などです。
大腿骨骨切り術の解説はこちらをご覧下さい
寛骨臼側骨切り術の解説はこちらをご覧下さい

図3 大腿骨頭回転骨切り術後
図4 大腿骨弯曲内反骨切り術
図5 寛骨臼形成不全症の単純X線写真
図6 寛骨臼回転骨切り術後

3.人工股関節置換術

 これらの自分自身の骨で治療する手術が適応にならない場合には、人工股関節置換術が適応になります(図7、8)。当科ではできるだけ侵襲の少ない方法(小さな傷、筋肉を傷めない)で、術翌日よりリハビリを開始し、術後2週間ですべてのリハビリを終了して自宅に帰っていただく方法を行っています。

 当科ではこれらの手術を行う際に、コンピューターシミュレーション技術を用い、より精度が高く確実な成果の得られる方法に取り組んでいます(図9、10)。また3Dプリンター技術を用い、実際のモデルや患者さん個別の手術支援器具を作成して術中支援を行うことにより、より精度が高く、より短時間で合併症の少ない手術を行えるような取り組みも行っています(図11)。
 全国的にも高度な診療をおこなっており、全国から我々の技術を勉強しに手術見学にこれらます。とてもやりがいのある股関節診療を経験豊富なスタッフが診療、研究の指導をします。

図7 変形性股関節症の単純X線写真
図8 人工股関節置換術後

図9 人工股関節置換術後
図10 コンピューターシミュレーションによる骨切除範囲の評価
図11 3Dプリンターで作成した大腿骨頭回転骨切り術用の術中支援器具
その他の「症例」や「専門的な知識」はintellgenceをご覧ください。