私は、2016年4月から2017年3月までアメリカ合衆国ケンタッキー州ルイビルにあります、Norton Leatherman Spine Centerに研究留学に行ってきましたので、その体験を報告させていただきます。
ルイビルは、シカゴから南に500km弱に位置し、アメリカの南部地方に位置します。アメリカ南部文化の影響があり、都会のボストンやロサンゼルスとは異なり保守的な人が多く住んでいるところです。留学中に行われたアメリカ大統領選挙でも、この地方は圧倒的にトランプ大統領支持者が多かったです。トランプ大統領、ペンス副大統領支持者の看板もよく目につきました。新聞では、トランプ大統領に決まって、街では暴動が起きたとか書いてありましたが、ケンタッキー州は上記の通り共和党支持者の地盤でいたって平和でした。
さて、ルイビルはケンタッキー州内で1番大きい都市で、都市圏で考えると130万人住んでいます。土地がとにかく広く、街は無料の高速道路が発達しており、車通勤が非常に便利です。日本との接点に関しましては、日系企業はルイビルにはほとんど進出しておらず、日本人は全部で100人ちょっとしか住んでいません。そのため、もちろん日系スーパーはありません。ルイビルに普通に生活していると日本人にはまず会いません。しかし、ありがたいことに自宅近くの韓国スーパーで日本食材を扱っており、価格もまずまずです。(日本と比べて1.5倍~2倍程度:一平ちゃん焼きそばが$2.8)
車でルイビルから東に30分ほど走ると、ケンタッキー州のブルーグラス地方と呼ばれる地域があり、そこには綺麗な芝生や牧場が広がり、非常に地平線が美しいところです。ケンタッキーは田舎なのであまりやることはありませんが、週末のオハイオ川のランニングやドライブがここでの趣味です。自宅には、表庭と裏庭を合わせておそらく100坪以上の芝生があり、見た目は非常に綺麗です。が、夏には毎週のように芝刈り2時間と意外に重労働です。この芝刈りは、アメリカ人のプライドで、男子がやらなければならない仕事で、さらに、乗車式の芝刈り機は、『怠け者』が使うものとみられているため、若い人は使ってはいけないようです。気候はというと、ルイビルは緯度的には山形県と同じくらいに位置しており、夏の間は朝こそ時々涼しいですが、日中は日差しが強く35度を超える日も多く、うだるような暑さで、冬はマイナス20度となり、外をランニングしていると肺が凍りそうになります。
治安についてですが、病院近くのダウンタウン周辺は、夜には近づきたくない異様さを放っております。しかし、少し郊外の自宅周りは比較的安全です。それでも暗くなってから外をランニングするのは怖くてできません。これは日本以外の外国はどこでもそうなのかもしれません。コミュニケーションでとても大事な英語は、南部アクセントがあるようです。が、自分が英語を理解できないのはアクセントのせいなのか、ただアメリカ人の話す英語が早すぎてついていけてないだけなのかもしれません。
ケンタッキーでの留学の1年間は、臨床医生活と異なり、時間にかなりゆとりをいただき1日2時間、時には3時間、出勤前、帰宅後に英語を勉強しました。しかし、1年住んだ後でも、レストランでウエイトレスさんが言っていることがわからなくて苦労しましたし、職場でのカンファレンスや雑談にはついていけないことが多かったです。自分で強く希望した留学でしたが最初の3か月は、生活の立ち上げは少し大変でした。
しかし、ふり返ってみると1年間で家族の絆は強まり、日本では経験できない数多くの経験を家族と共有できました。戸川准教授から、「留学はお金をかけて苦労しに行くところだよ」と言われた意味を、身をもって痛感しました。渡米当初苦労した子供達の学校生活、幼稚園生活も最終的には3,4カ月で適応してくれて、Google翻訳を使いながら英語で友達にお手紙を書いたり、休みの日に現地の子と遊ぶ約束をしてきたり、学校での楽しい様子を伝えてくれるようになり、その適応力に驚かされています。
日本では時間の制約上、子育てには十分参加できないので、今回のこの留学期間は子供の成長を間近で見ることができ、そのこともありがたい経験だと感じています。
さて、ようやく本題の、手術研修と臨床研究について書かせていただきます。 研究生活についてですが、現在までに成人脊柱変形手術の矯正術後の近位隣接椎間障害、骨盤パラメータの人種差、思春期側弯症の柔軟性評価の検討、成人脊柱変形手術の日米比較と多くのテーマとchapter執筆の機会を頂いきました。
また、渡米直後は多くの手術と外来を見学させていただきました。気づいたことを箇条書きで書きます。
・手術の10件につき1、2件、多い時で3件は急なキャンセルがでる。(保険会社がNoと言うようです。日本の保険制度のありがたみを痛感します。)
・外来の再診に来ない患者さんが多い。成人脊柱変形の術後経過を調べていても再診しない人が多くてちょっと困ります。退院前のレントゲン検査が最終レントゲンになってしまっている患者さんが意外におります。再診代、検査代も高いので、経過良好の人の中には自己中断する人がいるようです。
・薬物中毒の患者さんを多く見る。重症な感染性脊椎炎等や、交通事故で来院されます。
・医療費高い。噂通りです。娘マイコプラズマ肺炎になって病院受診1回、採血、レントゲン2枚、薬(クラリス)10日分しめて5万円です。
・病院からの請求書は2ヶ月後に送られてくる。しかも、専門科受診代、読影代、検査代は別々の請求書です。
ということで、未払いも結構あるようです。
・先生たちの有給休暇、年に8週間。気づくと、誰かがバケーションに行っています。(アメリカでは医者に年間6週間の有給休暇を与えるようです。その間に別荘で論文を書くようです、カリブ海を見ながら論文執筆、羨ましいです。)
・おそらく8週間も有給があったら、貯金が底をついてしまいますが、こちらの先生方は高級取りなので大丈夫なようです。
・ある脊椎外科の先生は昨年病院に2億円寄付していました。(税金対策でもあるのでしょうか?)
・多い時には週に50件以上の脊椎手術があります(脊椎外科医6人+脊椎1fellow(整形外科6年目)5人)年間2000件以上のペース、驚愕の数です。
・脊椎外科医が同時に同じ手術に入ることは滅多にありませんでした。基本はfellowか、優秀なPhysician Assistantと手術を行います。
渡米当初は外来見学や手術見学をしておりましたが、残り9カ月はデータ解析や英文執筆に没頭させていただきました。外勤もないため研究だけに没頭することができ、多くの業績を残すことができました。また、その他毎週の症例カンファレンス、fellow向けの脊椎講義は非常に勉強になり、貴重な経験を得ました。特に上司(Glassman先生、Carreon先生)に恵まれ、研究生活と初のアメリカ生活は充実した日々となりました。
最後になりますが、私に留学の機会を与えてくださった松山教授、受け入れ先のGlassman先生に交渉してくださった戸川先生、海外留学を応援してくださった、浜松医大同門会の先生方、長谷川先生をはじめ、医局の諸先輩方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。