大学院のご紹介│浜松医科大学整形外科学教室

大学院の紹介

基礎研究も患者さんのために

 「鬼手仏心」という言葉があります。「外科医は手術のとき,残酷なほど大胆にメスを入れるが,それは何としても患者さんを救いたいという温かい純粋な心からである」という意味です。基礎研究をするということは一見すると対象が「患者さん」ではなくなり、「動物」を手術し最終的には命までも頂くということであります。「仏心」を失い「鬼手」のみが残ってしまうように思われます。しかし、そうではいけません。基礎研究もやはり「患者さん」のためなのです。ただし、その距離が少し長いので実際に臨床をするよりも少し強い気持ちで「患者さん」を見据えなければなりません。これを日々続けて研究することは確固たる意志で医療に向き合うことに繋がるため、医師としても日々洗練されていくのだと考えます。これが基礎研究をすることで得られる最も大きな財産の1つであります。このように1日1日を大切にし、私たちは主に中枢、末梢神経の研究を行っております。最近では本学の細胞分子解剖学講座と共同で世界的にも非常に貴重な脊髄損傷における脂質解析(出典1,3)、末梢神経損傷後の中枢神経励起状態に関する脂質解析(出典5)などの報告をしております。さらに現在は神経障害性疼痛(出典2)、神経再生などについても研究しており、神経における研究については非常に恵まれた環境であります。
 脊髄損傷の脂質解析(出典3)においては炎症に関わるアラキドン酸含有リン脂質が損傷によって増加して、逆に神経保護作用のあるドコサヘキサエン酸含有リン脂質が減少すると報告しました。(図1)また脊髄損傷モデルにおいて炎症性サイトカインであるIL-6をブロックするとこのドコサヘキサエン酸含有リン脂質の減少を抑えるという報告もしています。(出典1)

図1 損傷脊髄における脂質の経時的変化(出典3)

 末梢神経損傷後の中枢神経励起状態に関する脂質解析(出典5)は、末梢神経損傷によって損傷箇所より中枢側の神経細胞は励起状態となり、更に二度目の損傷が加わると軸索再生が著しく促進するconditioning効果の脂質解析であります。このconditioning効果は脊髄再生の鍵と考えられている重要な現象です。ここでも坐骨神経損傷後にアラキドン酸含有リン脂質が脊髄後角で増加し、マイクログリアとアストロサイトの増加位置に対応すると報告しました。(図2)

図2 坐骨神経損傷後の脊髄での変化(出典5)

 神経障害性疼痛の研究(出典2)では末梢神経障害性疼痛モデルで起こる脊髄後角におけるマイクログリアの増加は、抗炎症効果があり臨床的には抗生物質としても使用されているミノマイシンの投与で抑制されることを報告しました。
 そして現在は主に神経再生について研究しております。現在当科で大学院生の指導もしている大村はアメリカのハーバード大学留学中に神経再生において重要な働きをする遺伝子を発見し報告しております。(出典4)同報告ではその他にも神経再生に関与する遺伝子の候補が数種類あり、現在はその遺伝子の神経再生に対する関与についての研究も行っています。(図3)

図3 クリーンベンチにて神経細胞培養

出典

  • H. Arima, M. Hanada, T. Hayasaka, N. Masaki, T. Omura, D. Xu, T. Hasegawa, D. Togawa, Y. Yamato, S. Kobayashi, T. Yasuda, Y. Matsuyama, and M. Setou, 'Blockade of Il-6 Signaling by Mr16-1 Inhibits Reduction of Docosahexaenoic Acid-Containing Phosphatidylcholine Levels in a Mouse Model of Spinal Cord Injury', Neuroscience, 269 (2014), 1-10.
  • T. Banno, T. Omura, N. Masaki, H. Arima, D. Xu, A. Okamoto, M. Costigan, A. Latremoliere, Y. Matsuyama, and M. Setou, 'Arachidonic Acid Containing Phosphatidylcholine Increases Due to Microglial Activation in Ipsilateral Spinal Dorsal Horn Following Spared Sciatic Nerve Injury', PLoS One, 12 (2017), e0177595.
  • M. Hanada, Y. Sugiura, R. Shinjo, N. Masaki, S. Imagama, N. Ishiguro, Y. Matsuyama, and M. Setou, 'Spatiotemporal Alteration of Phospholipids and Prostaglandins in a Rat Model of Spinal Cord Injury', Anal Bioanal Chem, 403 (2012), 1873-84.
  • T. Omura, K. Omura, A. Tedeschi, P. Riva, M. W. Painter, L. Rojas, J. Martin, V. Lisi, E. A. Huebner, A. Latremoliere, Y. Yin, L. B. Barrett, B. Singh, S. Lee, T. Crisman, F. Gao, S. Li, K. Kapur, D. H. Geschwind, K. S. Kosik, G. Coppola, Z. He, S. T. Carmichael, L. I. Benowitz, M. Costigan, and C. J. Woolf, 'Robust Axonal Regeneration Occurs in the Injured Cast/Ei Mouse Cns', Neuron, 86 (2015), 1215-27.
  • D. Xu, T. Omura, N. Masaki, H. Arima, T. Banno, A. Okamoto, M. Hanada, S. Takei, S. Matsushita, E. Sugiyama, M. Setou, and Y. Matsuyama, 'Increased Arachidonic Acid-Containing Phosphatidylcholine Is Associated with Reactive Microglia and Astrocytes in the Spinal Cord after Peripheral Nerve Injury', Sci Rep, 6 (2016), 26427.