留学体験記 飛鳥井 光 先生

Hokkaido Spinal Cord Injury Center

 2019年1月より北海道せき損センターに国内留学中の飛鳥井光です。北海道せき損センターのこと、せき損センターがある北海道美唄市のこと、北海道での実際の生活のことを簡単ではございますがご報告いたします。
 私が卒後5年目になったばかりのころ、松山幸弘教授より直接この国内留学のお話をいただきました。まだ経験の浅い私に、国内留学という貴重な機会を与えてくださった松山教授、同門会の先生方に大変感謝しております。また、私を引き受けてくださった、三浪明男院長(北海道大学医学部整形外科名誉教授)、須田浩太副院長(脊椎センター長)、北海道せき損センターの先生方にこの場をお借りして感謝申し上げます。

北海道美唄市

美唄市は札幌市と旭川市の中間に位置しています。
美唄駅から札幌駅まで特急で35分です。

 北海道せき損センターは美唄市という石狩平野のほぼ中央、札幌市と旭川市の中間に広がる道内有数の穀倉地帯にあります。人口約20,000人の自然豊かで静かな街で、北海道らしい広大な田園風景が広がっております(病院近辺でキツネやシカを目撃することもしばしばあります)。東側は丘陵・山岳地で、かつては豊富な石炭を産出していました。西側は、北海道最大の河川である石狩川が流れ、その周辺は田園地帯が広がり、春と秋に6~8万羽の国の天然記念物・マガンが飛来します。市の中心部には美唄駅があり、札幌駅まで特急で35分、1時間に2本という好アクセスで、日常は静かな暮らしを楽しみ、休日は都会へ行けるほどよい距離感です。美唄焼き鳥という、鶏肉、鶏皮、モツ(内臓)の各部位、タマネギなどをひとつの串に刺して焼く地域独自のグルメがあり、名物「モツ串」を求めて市内外からお客様がやってきます。また美唄市のある空知地方は国産ワインの生産地として有名であり、6つのワイナリーと3つのヴィンヤードがあります。ワインフェスが各地で行われており、広大なぶどう畑の中で、地元シェフのこだわり料理、現地限定販売を含む多数のワインを楽しむことができます。

北海道せき損センター

北海道せき損センター

国内に2施設しかない大規模脊損専門施設のうちの1つ(もう1つは福岡県飯塚市 総合せき損センター)で、脊椎・脊髄損傷に対して、超急性期から慢性期のリハビリテーション、そして社会復帰に至るまで、一貫して高度な専門医療を提供している専門施設です。病床数は157床、常勤医師は16名(整形外科9名、内科3名、循環器内科1名、麻酔科1名、歯科口腔外科1名)で、整形外科では北海道大学、産業医科大学の先生にご指導頂いております。敷地内にはヘリポートが設置されており、道内各地から患者様を受け入れております。脊損患者は年間約100例、北海道で発生する全脊損のうち約1/3に当たる患者様が当センターに搬送されてきます。脊髄損傷では循環器、呼吸器、消化器、泌尿器、心理・精神などの全身の多岐に渡る様々な合併症が起こるため全身管理が求められます。私が赴任した当初、脊損病棟では4-5名が人工呼吸器を装着しており、人工呼吸器管理を含む全身管理を、整形外科医を中心に行っていたことに驚愕いたしました。

脊椎外傷のみならず、脊椎手術は年間300-400件で、脊椎疾患全般の様々な経験を日々積ませていただいております。美唄市は高齢化率が40%を超えており、非常に高齢化の進んでいる地域ですので、重症骨粗鬆症や全身合併症を抱えた超高齢の難症例も多く、そのような難症例をいかに安全にトラブルなく治療するか、歴代の先生方が積み上げてこられた治療のノウハウを叩き込んで頂いております。また当センターへは、日本全国のみならず海外からも多くの先生が手術・病院見学に来られています。医局、国境を超えて、環境の異なる様々な先生と交流を深める機会があり、いろいろなお話を伺うことができました。留学中には非常に多くの方々にお世話になっています。様々な出会いがあり、ご縁に恵まれたことが大きな財産であると感じでいます。

学術活動

2019年 CSRS-Euro イタリア ローマにて

国際学会を含む多くの学会・セミナーで発表の機会をいただきました。赴任直後に研究テーマ「頚椎外傷に伴う椎骨動脈損傷」を与えていたき、第35回のCervical Spine Research Society - Europeに演題登録をいたしました。e-posterで採択され、2019年5月にイタリア、ローマで開催されたCSRS-Eに参加いたしました。私にとって、初めての国際学会参加であり、何もかもが非常に貴重な経験でした。急用のため参加が困難となった先生の代理で、口演発表の機会をいただきましたが、発表前夜は日付が変わるまで、須田先生、辻本先生にご指導をしていただいたことに改めて感謝申し上げます。また、同学会で須田先生が頚椎手術における独自性の高いアイディアと技術の発表をされ、学会賞(Mario Boni Award 2019)を受賞されたことは強く記憶に残っております。脊椎外科の世界の第一線で活躍されておられるエキスパートの先生のすぐそばで研修させていただき、大変お忙しい中にもかかわらず直接ご指導いただける、この恵まれた環境で働ける幸せを噛み締めております。私自身も、第28回日本脊椎インストゥルメンテーション学会で小野村敏信Best Presentation Award受賞させていただきましたが、これもひとえにせき損センターの先生方の並々ならぬご指導の賜物と深く感謝いたします。

北海道での暮らし

北海道で生活する上で気がついたこと、感じたこと、困ったことを箇条書きで書いて行こうと思います。まとまりがありませんがご了承ください。

全般
・野菜が好きになります。特にじゃがいも、アスパラが好きになりました。
・魚介類が好きになります。静岡では見かけない種類の魚が出回っております。
・お肉が好きになります。色んなお肉が全部美味しいです。羊肉が好きになりました。
・お酒が好きになります。日本酒、ワイン、ウイスキーと色んなお酒が全部美味しいです。酒蔵、ワイナリー、ウイスキー蒸留所めぐりが楽しいです。
・飛行機が好きになります。飛行機に乗る回数が増えます。慣れます。ANAのスーパーフライヤーズカードを取得することができました(SFCカード)。
・ゴキブリがいません。

病院から車で10分のところにスキー場があります。


・寒さに強くなります。真冬には最高気温が−10℃に達しない日も稀ではありません。濡れたタオルを回すと凍るというあの有名なやつをやって楽しめます。
・雪に強くなります。美唄市は国の特別豪雪地帯に指定されており、通算積雪量が10mを超えます。道路標識が雪に埋もれています。雪道の運転を習得できます。
・ウインタースポーツが身近になります。病院から車で10分のとこにスキー場があります。北海道特有の世界屈指のパウダースノーを気軽に堪能できます。
・雪道でも転ばない歩き方を習得できます。赴任して最初の冬は幾度となく転びました。失敗を繰り返すうちに、自然と転ばない歩き方となり、また滑りそうな場所を早めに察知する能力が付きます。

車で12分のところにゴルフ場があります。
ティーグラウンドにキツネが現れます。


・4月はまだまだ雪が降ります。
・桜の見頃はゴールデンウィークです。美唄市にある東明公園はソメイヨシノの北限地で、ある企画で森山直太郎さんが「さくら」を歌いに来たこともあるそうです。
・スギ花粉がないため花粉症の方は過ごしやすいようです。

北竜町のひまわり畑


・梅雨がなく快適です。朝晩は涼しく、クーラーはいりません。本当に過ごしやすいです。
・ゴルフのスコアが伸びます。ゴルフコースが多数あり、またプレイ代金も非常に安いです。病院から車で12分のところにもゴルフ場があり、早朝ハーフ1600円で回れます。1シーズンでベストスコアが136から100に急成長しました。
・花が好きになります。北竜町のひまわり畑、富良野のラベンダー畑など、見渡す限り一面に広がるあの大規模な花畑は圧巻です。

香嵐渓の紅葉


・日本一早い紅葉が楽しめます。紅葉スポットが多数あります。
・温泉地も多く、温泉×紅葉の組み合わせは最高です。
・10月下旬から雪が降りはじめます。スタッドレスタイヤに履き替えるタイミングが難しいです。

最後に

文章では伝えきれないことが多くありますが、私はこのように赴任して以来、公私にわたり非常に多くの貴重な経験を積ませていただき、濃密な時間を過ごしております。これもひとえに、皆様のご支援・お力添えがあるからこそであり、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。脊椎外傷を中心に様々な研鑽を積んで、多くのことを浜松医大へ持ち帰られるように精進して参りますので、今後もご指導よろしくお願いいたします。

道内各地から脊髄損傷患者様が搬送されます。
せき損センター(1月)、赴任した当初は雪の量に圧倒されました。
空知地方は国産ワインの生産地として有名です。
桂沢湖(岩見沢市)、氷上ワカサギ釣りが楽しめます。
四季折々の北海道らしい大自然を味わうことができます。
雪中BBQという北海道ならではの貴重な体験をしました。