私は関節リウマチ患者に対する診療を学ぶため、新潟県立リウマチセンターに1年間国内留学してきました。
私はもともと手外科班に所属していましたが、手の膨脹の鑑別が自分自身で出来るため、整形5年目で関節リウマチを専攻しました。専攻した翌月、上司の鈴木先生のお誘いで中部リウマチ学会に参加しました。夜の懇親会で新潟県立リウマチセンターの院長である石川先生とお話しをさせて頂き、国内留学のお誘いを頂きました。石川先生はリウマチ手の変形に対する機能再建手術において御高名な先生で、留学のお話は大変魅力的でした。リウマチに対する手術、薬物療法を学ぶために留学を希望し、松山教授のご厚意もあり、1年間国内留学に行かせて頂くことになりました。
海外留学ではなかったため、環境の変化に対する緊張はありませんでしたが、同じ日本でもその文化は静岡と大きく違いました。新潟は静岡と同じで横に広く、リウマチセンターは新潟市から電車30分の新発田(しばた)市にあります。新潟県は1年を通して、曇りと雨が多く、冬は雪が積もります。雪かき道具、長靴は必須でした。私が行った時期は幸いにも暖冬でしたが、静岡で経験できない雪を体験できました。食事が美味しいとの噂でしたが、特に日本海の刺身、枝豆、現地の日本酒が絶品でした。そのため現地では1年間で3kg増えました。
センターは国内唯一の県立のリウマチ専門施設で、病床100床で医師は私を含めて9人(整形外科5人、内科3人、リハビリ1人)でした。患者さんは県内だけでなく、山形県から石川県、東京都まで長距離を移動して来院される方もいらっしゃいました。リウマチ患者に対する手術は週に6件ほど行っており、全てリウマチの手術と考えるとかなり多いと思われます。手指変形、足趾変形に対する機能再建手術や肘関節、股関節、膝関節に対する人工関節手術を主に経験しました。また内科分野でも膠原病内科の先生からリウマチに対する薬物の使い分けや膠原病疾患の鑑別の仕方などを勉強させていただきました。
1年間を通して、日本整形外科学会、日本リウマチ学会、リウマチの外科学会、関節病学会、中部リウマチ学会で発表させて頂きました。規模が大きく歴史あるリウマチセンターだからこそできる研究ができ、留学中に執筆した「Twenty years’ follow-up of radiocarpal arthrodesis of rheumatoid wrists」がModern Rheumatologyにacceptされております。そのほか前向き研究の一環として関節リウマチ患者に対するフレイル教育入院制度を導入しました。これは3泊4日のスケジュールで全身検査を行った後に、リハビリ・栄養指導を1年を通して行います。在籍中に経験した50症例のデータをみるとフレイルになった患者様はリウマチの疾患活動性が高いか、その他の隠れた疾患が原因となることが多い印象でした。留学を終えた後でも、またデータを取らせて頂く許可をいただきました。
オフの日は新潟近辺の観光を満喫しました。日本で一番インスタ映えすると噂の弥彦神社や清津峡、佐渡島、その他山形のクラゲ水族館や富山の黒部ダムに行ってきました。静岡にいる以上は行くことはないためいい思い出になりました。 また観光ではありませんが、リウマチセンターから車20分のところに新潟手外科研究所があり何度か見学に行き手術を見学させていただきました。浜松医大の手外科と違った手術法を見学でき、いい経験になりました。
・留学先でどうするかは自分次第で自由です。研究がやりたければ先生方が協力してくださいますし、手術を勉強したければ先生方が優しく指導してくれますし、お酒と肴が欲しければいいお店が多いので仕事後に楽しむことができます。私は全てを楽しむことができました。 ・リウマチは整形外科医師である以上必ず遭遇する疾患です。遭遇して何が出来るかを知っておくことは後の診療に必ず役に立ちます。カタカナの薬が多いため苦手意識がある人が多いと思われますが、リウマチセンターに1年いると自然と覚えます。 ・北陸に人生1年間住むのは大変いい経験になりました。場所は寒いですが人が皆暖かいです。 ・海外留学ではないため留学先で日本語が通じます。